久留米大学特任教授 古賀幸久 の考える、これからの生き方論。
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人間力とは(体と心のバランスと地域的特徴)

#16 2019年9月24日


 私はこれまで度々学生に対して「人間力を付けなさい」ということを述べてきました。私自身これをどのような認識で述べてきたかを文章にしてまとめてみたいと思います。
 人には「体」と「心」があり、「理論性」と「感受性」があります。「知識」と「知恵」もあります。前者の「体、理論、知識」は外に向かって示される外面性を強く持ちます。後者の「心、感受性、知恵」は自らの在り方に関する内面性が強いものです。一般的に「人間力」とは前者も後者も一体化し、絡み合っています。

体と心のバランス

 前者は客観的・外面的なものです。「体」に関しては互いに相手の力を外見的に観察することが可能です。「理論」や「知識」に関しては、互いに相手の内容を客観的に理解、納得しあうことができるものです。
 これに対して後者は主観的・個人的であり内面的なものです。感情的・独断的なもので、客観的な合理性がなく、互いに理解するということが難しいものです。「心」から連想される言葉は熱意、意欲、信念、決断力、胆力、魂などが、また、「感受性」からは趣味や興味、五感、観察、想像力、発想力、適応力、柔軟性など、そして、「知恵」からは優しさ、親切心、誠実さ、責任力、寛容さ、謙虚さ、共存力などが連想されます。
 一般的に、論理は感情を原点としています。心の在り方や欲求の方向性が論理や学問を生み出す原動力となっています。そして、逆に、論理や合理性から外れればストレスにもなります。つまり、前者も後者も一体となって相互に作用しあっています。前者と後者のバランスが欠けた人は「頭はあるが心が通わない人」、「良い人だが中身のない人」になります。人間力があるということは「行動と心」がバランス良く調和していることにあります。

人間力の相対性(地域に応じて求められる人間力)

 人間力としての体と心のバランスの在り方は個人によって違うだけでなく、地域によってそれぞれの特徴が顕著に現れてきます。
 地域による特徴の違いが生まれる背景には、気候や風土、地勢などがあり、それを前提条件とする慣習や伝統などがあります。
 例えば、砂漠が多く水の少ない地域では人々の生活する場所はオアシスなどに限られ、部族単位の集団生活を維持することで可能となります。また、過酷な自然条件の砂漠で生活するうえで、人々の思考には計画性や論理性よりも感覚と直感力に優れた臨機応変な対応能力が求められます。他方では、そのような厳しい自然環境の中にあって、個人は集団から守られることでしか生きていくことができないため、部族集団の純血(同じ部族集団の中での婚姻制度)を守る団結力と集団社会の慣習や規範に従う保守性が求められます。
 これに対して、水の多い農村地域では人々は規則的な四季の変化の波長に合わせながら自然と調和した生活を営みます。人々は互いに自然の恩恵を喜び、自然に感謝し、順応しながら生活をします。人々は水を管理・活用し、計画的に作物を植え、収穫を行います。個人は自然に調和・共存して合理的・計画的に管理された社会の中で生きていきます。
 人はその帰属する社会の求める性格により、それぞれの社会の特徴的な問題や課題に向き合って生きてこそ地域社会に認められる人間力を発揮することになります。人間力はそれぞれの地域的特徴に応じた相対的な性格を持っています。

人間力の絶対性(普遍的な人間力)

 このような相対的な面にあわせて、人間力の絶対的な側面についても認識することが重要です。
 そのまま受け入れることができる客観的で相互に理解しやすい理論や知識の間には一般に障壁はなく、共感・共有することは容易です。しかし、主観的な心や感情の間には越えることができない大きな壁があります。そこでは、壁を乗り越えるのではなく、乗り越えることのできない壁を壁として認め、互いの大事なものを尊重し、共感・共存する力が求められます。ここに人間力の核があります。
 良かれと思って行動する人が、個人的な信念による熱意や良心があっても、それを異文化の世界で押し付けては決してうまくいきません。それは人と人、親子や夫婦の関係においても然りです。
 これまで長い間、パキスタンやアフガニスタンでの医療活動や農村の復興事業に携わっておられる「福岡ペシャワール会」の中村哲医師は、約30年程前、私が「たいへんな事業をされていますね。」といった際に、「楽しくやっています。私に向いています。」といわれたことが強く脳裏に残っています。日本とは極めて異質な社会において、現地のことを尊重しながら、あれだけの大事業を成し遂げられた中村哲先生やそれを支えて来られた会の方々の本質的な人間力を端的に物語る一言です。

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